公開日:2023年5月10日

OECD移転価格ガイドライン

[おーいーしーでぃーいてんかかくがいどらいん]

OECD移転価格ガイドラインとは、OECD租税委員会が、多国籍企業に関する移転価格およびそれに関連する税務上の問題について、各国の税務当局と多国籍企業双方にとっての解決の方策を示した指針のことをいう。実務においては簡略化して「OECDガイドライン」と呼ばれることが多い。 OECDガイドライン自体は法的拘束力を持つものではないが、OECD加盟国の総意の上で取りまとめられており、先進国を中心とした国際的コンセンサスとして機能している。わが国においても、移転価格税制およびその執行において、OECDガイドラインに基づく国際的コンセンサスを尊重しており、税務上の規定も、OECDガイドラインとほぼ整合するものとなっている。 OECDガイドラインは、二重課税の防止および移転価格税制の公正な適用を目的に1979年に作成され、その後、OECDでは、経済のグローバル化および技術の進歩等による国際経済の急激な変化に対応するために、1993年以降、租税委員会において検討が重ねられている。 このOECDガイドラインに関する主な改訂は次のとおりである。 最初は1995年に行われた改訂で、取引単位営業利益法の導入と伝統的取引基準法(日本でいう基本三法)の優先適用の採用等が定められた。次の2010年に行われた改訂では、移転価格算定方法や比較可能性分析などを定める第1章~第3章が全面的に改訂された。主な改訂事項には、伝統的取引基準法の優先適用に代わる最適方法ルールの採用と、これに伴い「取引単位利益法」という新しい概念に分類されることとなった取引単位営業利益法(TNMM)と利益分割法(PS法)の適用ガイダンスの拡充などがある。改訂は細部にわたっており、事例も格段に増えた抜本的なものであった。さらにはこの改訂で第9章が新設され、事業再編(restructuring)に係る移転価格上の取扱いについてのガイダンスが導入された。 近年、多国籍企業等が国外関連取引により国際的二重非課税の状況を生み出しているいわゆる税源浸食と利益移転(BEPS: Base Erosion and Profit Shifting)について歯止めを掛けるため、OECDが行動計画を示している。その行動計画にはOECDガイドラインに関係する内容もあることから、OECDは行動計画に応じたOECDガイドライン改訂が検討された。 2015年10月にはBEPS最終報告書が公表された。その最終報告書の一項目(行動計画13「移転価格文書及び国別報告書」)として、OECDガイドラインの第5章「移転価格文書化」を改訂する内容が示された。この新たな移転価格文書化制度は、多国籍企業グループに対して3種類の移転価格文書(マスターファイル、CbCレポート、ローカルファイル)の作成を要求する内容であり、これにより、多国籍企業のグローバルな活動内容の実態について透明性を高め、各国税務当局が必要な情報を適切に把握できるようにすることが目的とされている。また、OECD移転価格ガイドラインの第1章(独立企業原則)、第2章(移転価格算定方法)、第6章(無形資産に対する特別の配慮)、第7章(グループ内役務提供に対する特別の配慮)および第8章(費用分担取極)の改訂案が示され、バリュー・チェーンにおける取引単位利益分割法および金融取引については、今後の検討課題とされた。 2017年7月には上記のBEPS最終報告書および2017年5月に公表されたディスカッションドラフトの内容を基に、2010年以降、全面改訂となるOECDガイドライン2017年版が公表された。 2022年1月には5年ぶりの改訂となるOECDガイドライン2022年版が公表された。主な改訂点は、第2章(移転価格算定方法)第III部C 「取引単位利益分割法」が2018年6月に公表された「取引利益分割法に関する改訂ガイダンス」により全面改訂された。また、2018年6月に公表された「評価困難な無形資産に関するアプローチの適用についての税務執行上のガイダンス」は第6章 「無形資産に対する特別の配慮」の別添IIに組み込まれ、2020年2月に公表された「金融取引に関する移転価格の側面」は新たに10章として追加された。